療育指導室
重症心身障害病棟と療育指導室
当院には2ヶ病棟(100床)の重症心身障害病棟があります。
重症心身障害病棟の中でも特に当院の重症心身障害病棟は「動く重症心身障害病棟」と言われています。「動く重症心身障害」の定義は議論が多く難しいのですが、当院では重度の知的障害に行動の障害を合併している状態像と考えています。
独立行政法人国立病院機構では、動く重症心身障害の方たちへの精神科医療と福祉支援サービスの提供を全国9ヵ所の病院で行っています。数少ない施設のため入院希望者や見学等、県内外から多くの問い合わせがあります。
1 取り組みとその目的
著しい行動の障害があって、日常生活の中で、色々と困難が生じてしまう方もあります。当院には、そのような方々が入院して、精神科病院としての専門医師や看護師が日夜、その病状の緩和に努めています。それと同時に、色々な療育活動を通じて、患者さまの生活を豊かにする取り組みを行っています。
その取り組みは「医療・看護」「生活支援」「療育・保育・指導」「福祉」「学校教育」等、色々な場面での取り組みになりますが、それぞれのスタッフが、その専門性を生かした連携を行い、患者さまが平穏で豊かに生活していただけるように努めています。
2 取り組み課題
(1)豊かな入院生活を目指して
著しい行動の障害のために、どうしても生活の中に色々な制限が出てきます。しかし、スタッフはそのような制限の中でも少しでも患者さまの生活が豊かであって欲しい、という願いを持ち、色々と工夫しながら取り組みを行っています。療育内容一つをとっても、毎月のスタッフミーティングを重ねることによって、活動の幅を出来るだけ広げ、一人一人がその個性を生かしながら、楽しく充実した日々が過ごせるようにと考えています。また、四季折々の病院内外の活動を通じて、生きている喜びを感じてもらえるような潤いのある環境作りを行っています。
(2)地域医療に貢献する病院としての機能
何かのきっかけで自分自身の感情や行動がうまくコントロールできなくなり、行動の障害として表現してしまうケースが多くあります。そのピークとしての行動の障害だけが注目されてしまうと、彼ら自身も周りの人たちもうまくつき合っていけなくなる恐れがあります。
そこで、当院では、「有目的・有期限入院」ということに積極的に取り組んでいます。これは、一時的にパニックを起こし行動の障害が発生した場合などに、当院を利用していただくシステムです。
一つ目はこのことによって本人自身が傷ついたり悲しんだりする場合、一時的に入院していただき、医療的にも生活的にも心理的にも落ち着いた状態になって貰う必要があるからです。
二つ目は地域医療に貢献するということです。家庭で生活している人たちを支援するために、一時的な入院(医療的要請や社会的理由による一時入院)に対応できる病院でありたいということです。
そして三つ目は、施設間の機能的協力関係の確立ということを考え、障害児(者)施設等での対応が一時的に困難な状況となった場合の対応です。この様な時、緊急的に入院といった形で、患者さまの保護を行う場合があります。
当院は、これらを総合した形で機能できる病院を目指しています。
3 療育内容
入院患者さまはもちろんのこと、外来患者さまに対しても、総合的な療育活動が展開できることを重点とし、以下の項目内容を組み込んでいます。
(1)設定療育
a グループ別療育
小グループでの利点を生かして、小回りの利くグループ活動を展開します。四季折々の自然と向き合いながらの散歩や屋外での活動、室内における創作活動や余暇の利用も計画します。 楽しいこと、面白いことはもちろんですが、活動を通してコミュニケーションの促進や、対人関係の促進、意欲を持った生活の呼び起こしをしたいと考えています。又、作業療法部門と療育指導室が協力して生活機能の維持・向上、主体的な遊びや興味・関心の幅を拡げていくことを目指した活動も組み入れています。
b 全体療育
病棟全体を一つの単位として活動するもので、日々の集いなどによって、患者さまたちの状況を把握しながら活動していきます。 生活の中にメリハリをつけていくことにより、規則正しい生活リズムの構築にもつなげたいと考えています。
c 生活指導
日常生活の中で基本的な生活習慣やマナーを身に付けたりすることも大切な活動です。著しい問題行動のため、基本的な生活習慣(衣食住)に混乱が生じてくる場合があります。規則正しい生活を回復することにより、行動の障害の軽減に結びつくこともあります。
d 院内外療育活動
生活の一部として、楽しいことを色々と取り入れる工夫をしています。その一つが院内外療育活動です。
院外療育活動の中には、病院からバスに乗って色々な場所に出かけるバスドライブ、ショッピング、地域生活を体験するための社会資源の利用等があります。また院内療育活動には四季折々の季節を感じる行事(お花見、七夕、お月見、クリスマス等),そして屋外での調理、食事会など様々な活動があります。みんなとても良い顔で参加されています。 この院内外療育活動はグループで行う活動と病棟全体で行う活動、個別的活動があります。
e 個別活動
個別的な支援、活動が適切と思われる方には、個別療育や個別作業療法を行っています。(長期にわたってベッドで過ごさなければならない場合にも実施します)
(2)外来指導
行動障害に対するこれまでの経験の蓄積を生かして、発達障害に対する外来相談、療育相談を行っています。専門医師の診察、指示に基づき、療育指導室の取り組みとして継続していきます。行動障害に対する相談だけでなく、福祉手当、障害年金申請や地域生活支援に関する相談が増加しています。
(3)家族との連携・地域との連携
長期の入院を余儀なくされた人たちがおられます。当然平均年齢も徐々に高くなってきています。これに伴って家族の年齢も高くなり、患者さまを含めた家族全体の将来に対する不安が出てきました。これらの問題に対応するのも療育指導室としての重要な業務の一つです。家族と一緒になって入院患者さまや外来患者さまのより良い将来を見つめていきます。
また、地域との連携をより効果的に充実していくためには、外部の関係諸団体(児童相談所、福祉事務所、市町村、社会福祉協議会、地域障害者相談支援事業者、地域の医療機関、教育機関等)との密接な関係が不可欠です。療育指導室はこれらの関係機関と連携し、患者さまを取り巻く問題に対応しています。また、病院行事を通して地域に解放された施設への取り組みを行うとともに、地域の活動への参加も行っています。ボランティア活動の導入も継続して行います。
さらに、学校教育との関わりのある患者さまに対しては、親代わりとして打ち合わせや連絡の窓口としての役割も担います。充実した学校生活が送れるように側面から援助していきます。